乳頭の分泌液

乳頭(乳首)から分泌物が出る場合

乳頭からの分泌物妊娠や授乳期になると、赤ちゃんに栄養や免疫力を与えるために、乳房の組織である乳腺が母乳を作るために発達します。その乳腺の「小葉」という部位で母乳が作られ、「乳管」という母乳の通り道が存在します。乳管を通った母乳は乳頭にたどり着き、乳頭の先にある穴(15~20個あるとされる)から母乳が分泌されます。母乳が分泌され始めるきっかけは出産であり、具体的には妊娠後期の出産間近の数週間から出産後にかけて分泌されるようになります。

妊娠・授乳期に乳腺が発達し、結果母乳が分泌されるのは、プロラクチンやオキシトシンなどのホルモン、また女性ホルモン(エストロゲン)が関連しています。

乳頭異常分泌という妊娠・授乳中以外に、乳頭(乳首)から分泌物が出る疾患があります。乳腺科へは、様々な症状で受診されます。例えば、「乳首から出血している」「しぼると、白っぽいカスのようなものが出る」「下着にシミのようなものがついている」などです。中には、乳頭乳輪部の皮膚の炎症による浸出液を「乳頭分泌」と考えて受診される方もいますが、正確には、乳頭の先にある穴から分泌が見られることを「乳頭分泌」と言います。

乳頭分泌の原因は、分泌物が無色透明や黄色、白、白濁している場合は、ほとんどが女性ホルモンのバランスの乱れに起因します。しかし、乳頭から血が混じったような赤色や茶色の分泌物「血性分泌」が分泌された場合は注意が必要です。その場合は、良性腫瘍であることも少なくありませんが、乳房の感染症や乳がんのこともあります。

乳頭異常分泌は、乳腺の異常から生じることが多いため、分泌があった場合は一度乳腺外科を受診してみましょう。

原因

以下が乳頭異常分泌の原因として考えられます。

① しこりを伴わない乳がん~非浸潤性乳管がんなど

乳がんは、小葉の上皮細胞や乳管から発症しますが、その発生した乳がんが乳管や小葉内に留まったまま、感染部位の拡大がない状態を「非浸潤性乳がん」とされます。飛浸潤性乳がんは最も早期の乳がんです。最近では乳がんの検査技術の進歩に伴い、しこりのない「触知しないしこり」「石灰化」として発見されるケースが増えています。
また乳管から発生し、その後乳管内から拡大していないがんは、「非浸潤性乳管がん」と言われています。乳管を通じて乳頭からがん細胞が生成した分泌物が乳頭から分泌がされることがあります。
症状が乳頭分泌だけなのが「非浸潤性乳管がん」の特徴のひとつです。定期的な経過観察を行う中で画像上に変化が認められ、診断されることはありますが、超音波検査やマンモグラフィでは異変が見つからない場合も存在します。微細な病変で、また進行がゆるやかなので、発見・治療を行うまで時間がかかる時があります。

② その他乳腺の病気~乳管内乳頭腫、乳腺症など

乳管内乳頭腫は乳房の乳腺の中でも、乳管にできる良性の腫瘍です。乳管内乳頭腫の症状として、乳頭からの分泌物、しこりを触れるなどが挙げられます。
乳腺症の原因は女性ホルモンのアンバランス化とされており、乳房のしこりや痛みを伴うこと、場合によっては乳頭分泌が症状として現れます。また、その分泌は細菌感染による乳腺炎が原因の場合があります。

③ 内服薬によって起こるもの、その他ホルモンの異常

乳腺が正常な場合でも、ホルモン異常などの要因で分泌が起こることもあります。分泌が起こる例としては、ピルの服用や甲状腺疾患が挙げられます。他にも抗うつ薬や高血圧や胃潰瘍のお薬の副作用が原因で起こるともあります。また、両方の乳頭から多量の分泌が認められる場合には、「脳下垂体腫瘍」という稀有な腫瘍も原因となっている場合もあります。
プロラクチンというホルモンの量が多い時には、出産後に断乳しても、数年間は乳汁分泌の症状が出続けることがあり、不妊に繋がることがあるので注意が必要です。

診断

既往歴や、内服薬、症状がどのような時に見られるか(毎日出る、止まっていることがある)、月経の周期との関連がないかなど、丁寧に問診を行います。
また診察は、しこりがあるかないかを確認したり、乳頭をつまんで分泌物の状態を見るなどがあります。

分泌物の性状

分泌物の形状はさらさらしたものから濁ったもの、塊のようなものまで様々で、色は無色、白色や黄色、赤色や茶色の場合などがあります。量もケースによって異なり、少ないものではマンモグラフィ検査で強く圧迫した際に多少出る程度から、多いものではガーゼなどをあてていないと下着が汚れてしまうこともあります。

分泌物が片方のみまたは両方からなのか、分泌が生じる乳頭の穴は1か所なのか、それと複数なのか、押すと出てくるポイントがあるのかどうかなど

状況に応じて、超音波検査やマンモグラフィ検査を実施します。また、分泌物を採取して病理検査を行ったり、分泌物に含まれるがん細胞が分泌する物質(CEA)を測定することもあります。画像検査の場合、乳がんを疑う部位があれば、その組織や細胞を採取して病理検査を行います。
さらに、場合によっては診断のため、分泌の原因となっている乳管を含む乳腺の一部を切除することがあります。また、乳房のMRI検査を追加することもあります。

治療

非浸潤性乳管がんや乳がんによるものではない場合、経過観察とすることがほとんどです。乳がんに起因する場合は、放射線治療や手術、時にはホルモン治療を組み合わせた治療を行います。がんの中では比較的、治療後の経過は良好と言われています。

乳管内乳頭腫の多くは治療を必要としません。乳管内乳頭腫を切除した患者様の実に1、2割には主に非浸潤性乳管がんなど初期の乳がんが見つかることがあります。また、乳管内乳頭腫が多発する場合は、がんとの鑑別が画像では困難なことがあります。そのため、乳管内乳頭腫の場合は定期的な経過観察を行っていますが、何か不安なことがあればすぐにご相談ください。
また、乳管内乳頭腫の血性分泌量が多く、継続的に起こる場合やご年配の方でがんを疑うケースなどでは、診断と治療とを合わせて行う目的で、分泌の原因の乳腺の一部(乳管を含む)を取り除くことがあります。

一時的な女性ホルモンのバランスの乱れに起因するもの、乳腺症や薬剤性のものと考えられる場合は経過観察となります。さらに婦人科的・内科的な病気ないしホルモンの異常が懸念される場合は、その専門医と連携した治療が必要となります。

セルフチェックのポイント

セルフチェック乳頭から分泌物があっても、多くの場合では疾患は認められません。しかし、常に同じ乳房の同じ乳頭の穴から分泌物が継続している場合は注意しましょう。
乳がん以外にも、様々な病気が懸念されます。症状を感じたらできるだけ早期に受診しましょう。

また、乳がんには乳頭の分泌以外にも、乳房の痛みやひきつれ、乳房やわきのしこり・へこみ、乳頭のへこみ・湿疹・変形・ただれ、乳房全体が固くなる、乳房の大きさが左右で異なるなどの症状が存在します。日頃から定期診断やセルフチェックを行い、乳がんの早期発見を心がけましょう。

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